「ルサンチマンがなきゃいけない」という不安

唐沢 (略)ところが、その状態が続くとふと不安になって、俺はこの現状に満足してしまうんじゃないか、ルサンチマンがなきゃいけないんじゃないか、と、突如として不安にかられてしまった。
岡田 「ルサンチマンがなきゃいけない」、俺にはない考え方だ(笑)。
唐沢 ルサンチマンは、先天的に持ち合わせている人と、後天的に作り上げるタイプの二種類がいて、僕自身はなまじ他人とコミュニケーションをとれる能力もあったし、女性ともつきあえただけに、逆になにか欠損を作らなきゃいけないみたいな思い込みがすごくありましたね。
それで変な話ですけどね、一生にいっぺん、そのとき女断ちというものをしたんです。
岡田斗司夫唐沢俊一 対談「オタク伝説を背負って」『オタクの迷い道』)

あまりにも普段どおりだったので、今日になるまでバレンタインデーの存在に気づきませんでした。
田舎住まいなので、バレンタインのセールとかが目に入るほど身近に無く。
最近テレビもまったく見てないのでその手の宣伝にさらされることもなく。
おまけにネットも最近あまり巡回できてないのでさらに気づかず。
しかもここ数ヶ月は日常で殆ど女性と会話する必要など無い…というか、そもそも周囲に女性がほぼ無いに等しい状況でして。話しても「おばあさん」「おばさん」「お嬢ちゃん」の年齢層の人ばっかですし。見事に中間層がない。
かてて加えて、先週はずっと男だらけのむさい山小屋に引きこもってたりで。
そうしているうちに、気がつくとバレンタインとかの華奢な世界に何の感慨も抱かぬ心境になっていました。
一昔前の僕なら、はだしのゲンよろしくギギギと歯を鳴らして、道ゆくアベックに「貴様ら所詮自分にかまってくれる相手がほしいだけの癖にさかりやがって不純だコンチクショータマタマタマタマタマタマタマタマタマタマタマタマタマタマタマ」とタママちっくな毒電波を送りつけてるところだったのですが、今では「クルクルクルクルクルクルクルクルクルクルクルクルクルクルクルクルクルクル」と、とても健やかな電波を送れるようになりました。


ということで、今日も今日とてレトルトの牛丼を食いながら「いやー、クリスマスも気がついたら過ぎ去っていたし、ようやくオラも悟りの境地に近づいてるんじゃろか」などと思っていたのです。
が、しかしふと、このままじゃいけない、なにか怒りを溜め込まんといけないような気がしてきたのです。


というのも、まさしく上記の唐沢俊一のような悩みですよ。
乗り越えるべきルサンチマンが無くなってきているので、自分の精神が成長できないような気がしてきたのです。
いや、唐沢先生は問題を乗り越える能力があるせいで逆にルサンチマンを必要としたのですが、僕の場合問題を放っておいても構わんような状況にいるせいで逆にルサンチマンを必要としてるのです。
心が澄んでくるのは、物を書いたり何かを創作したりする人間にとっては、ある種よくないことであるともいえます。仙人みたいな思考の文章もウケるっちゃウケるのですが、情念ドロドロの文章を書きたがって読みたがるのもまた人間。
以下の引用は、この問題を実にコンパクトにまとめた名台詞です。

おみィの漫画は最近面白くにィ!!
いいかあ。コップの水だ。最近のおみィのコップの水は澄んでる!!
澄んだおみィは、日々心が安心だ!!
おみィはそれを、ある境地だと思ってるんじゃにィか!?
うぬぼれるなっつーの、ボケッ!!
そんなこったからオーモしれえ漫画が描けにィんだよ!!
おみィの水は澄んだんじゃにィよ。汚れはコップの底に沈殿してんだよ!!
コップをゆさぶれっ!
ゆさぶって沈殿物を舞い上がらせろ。そうしねえといい漫画は描けねえぞ!!

(毒薬仁太郎 ジョージ秋山「WHO ARE YOU? 中年ジョージ秋山物語」)

状況としては「ジョージ先生自身が自分の漫画のなかで、自作の漫画のキャラに説教される妄想をしている」っつうわけわからん話なのですが、この回の毒薬先生の言葉は涙なしにはとても読めないのであります。

それはともかく、「漫画」の部分を「ブログ」とか適当なものに置き換えてみると、このような悩みを抱かれる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
僕も先日書いたアンパンマンの話が結構ウケたので、自分もやなせ先生のように、憎しみも悲しみも乗り越えた徳のある人間になったように思い上がってましたが、考えてみれば僕自身は別に憎しみも悲しみも乗り越えてないのです!
いや、よく考えずともそうなのですが。


というわけで、今よりもっと面白い文章を書いたりして精神を成長させるためには、バレンタインの日にはタマタマタマタマと毒電波を送りつけたりするような、恨み・嫉み・憎しみの感情が必要だという結論が出ました。
ということで僕は今後一層、負の気持ちを奮い立たせて、モリモリそういう文章を書いていくべきなのです。
修行するぞ修行するぞ!(’A`)


唐沢 だからオタクで一番困るのが、強迫神経症的になってしまうことなんだと。
岡田斗司夫唐沢俊一 対談「オタク伝説を背負って」『オタクの迷い道』)