地方オタクとオタクの現場と

今日は久々の更新で久々の地方のオタクのハナシですよ。

比嘉 でも秋葉原や東京で固まるのもいいんですけど、みんなが今いるところで布教活動をして、オタクを増やしてくれればと思いますね。オタクになったときに回りにお店がなかったら、せっかく生まれても死んじゃいますから。各地でオタクを増やせば、沖縄から僕みたいに東京に逃げ込む人も減るわけですよ!
三平 逃げ込んだんだ、上京じゃなかったんだ(笑)。
比嘉 上京じゃないんです。「沖縄にはアニメがねえ!」と言って。「アニメがねえ、フィギュアもねえ、メイドがどこにも走ってねえ」って(笑)。
国井 「オラこんな島やだ」(笑)。
本田 あれは北国の歌じゃないですか(笑)。でも、オタク文化は、一つ拠点が出来ると結構集まってきますからね。ブロードウェイだって、『まんだらけ』が入る前は何もなかったですから。ほとんどゴーストタウンみたいだったから。
三平 それが、いまやちょっと栄えちゃってますからね。
本田 あれは『まんだらけ』の社長がいろんな人を呼んだらしいですよ、「お前もやれ、お前もやれ」と。そういう人が一人でてくれば、村興し、町興しはできますよ。
本田透・アニメ会 「にじいき」)

今日お話したいのは、地方のオタクの人材問題です。都会と同等のコンテンツを享受したいと思う地方オタクにとって、そしてより勢力を拡張しようとするオタク業界にとって由々しき問題は、地方の人材の貧困さにあると思います。


地方での消費の機会が狭いということは今まで言ってきましたが、消費するだけのオタクなら、金とネットさえあれば、ある程度質と鮮度の落ちたものが不確実に手に入るので、我慢すれば地方でもなんとかギリギリやっていけないことはないのですよ。ホントギリギリ。
しかしそれ以上に踏み込んだオタクになろうとすると、地方ではさらに酷い障害が出るのですよ。


例えば代表的なところで言いますと、なにかのイベントに対する距離が大きな障害の一つでしょうかね。
東京…というか関東は、とにかく企業なり、アニメ監督や漫画家や小説家などのクリエイターなり、声優なり、芸人なり、ライターなり、イベンターくずれの大手サイト管理人なりが少なくない数います。そのため、彼らの露出する機会が他所の地域よりも遥かに多い、つまりネットや金銭があるだけでは参加できない「イベント」の数が圧倒的に多いのです。
ここで言う「イベント」は、何もロフトプラスワンとかどこぞのレンタルスペースで有名人がやってるようなものでなくとも、ちょっとした同人誌即売会であるとか、もっと小さなネットのオフ会であるとか、そういうものまで含んだ「イベント」のことです。
規模の大小や形態は様々であるにせよ、頻繁にイベントが行なわれる。これによって都会のオタクは、なんというか「オタクの現場」とでも言いましょうか、オタク文化の生産・消費・再生産のサイクルを体感し、創作や批評などの競争が行なわれる空間、生で有名人を見れる・下手すれば会話できるような空間に近づく機会というのをを得ます。この機会があることで、貴重なアイテムや人間関係や経験やらなんやらの、オタクとしての質をより深く得ることが出来ます。
イベントに参加することで、よりオタクコンテンツに興味を深め、同じイベントに参加する人間との関係が築けたり、製作者側に近づくことで貴重で重要な情報を得たり出来る。また、製作者側よりの人なら、そのイベントをきっかけにして、また新たに作品や、それに伴ったアイテム、イベントなどが立ち上がっていく。例えば本田透とアニメ会の関係もそうですね。沖縄の比嘉さんがずっと沖縄にいたらオタクネタの芸人であっても接触できなかったでしょうし、本田さんがアニメ会のライブを見に行かなかったら、今のような付き合いもないでしょう。
結果として、オタクのイベントが多く行なわれることで、コミュニティや消費の幅が広がり、オタク業界に還元される。そしてまたそこからイベントが多く立ち上がり、どんどんオタク文化が豊かになっていく。このように、オタクが大勢居ることで起こるイベントが、オタク業界に良いフィードバックをしていくのです。そうじゃない場合も多々ありますが、まあ置いといて。
で、地方にはそういうイベントがほぼ無いのですね。土地によっては夕張国際ファンタスティック映画祭みたいなのもたまにありますが、あれも官主導ですし、潰れちゃいましたしね。
地方においては、そういうイベントだとか、オタクの現場に対する距離というものの根本に、人材の貧困さがあると思うのです。


そもそも地方は今まで何度も述べたとおり、アニメはやってないわ、雑誌は発売日が遅れるわ、「オタクの現場」は遥か彼方にあるわ、周りからはバカにされるわと、消費するだけのオタクであれ、もうちょっとアクティブなオタクであれ、オタクをやってるのが結構つらい状況にあるわけです。
そんな土地で育った中にも…あるいは枯れた土地で生きてきたがゆえか、妄想力や知識欲のやたら強いオタクが稀に出来上がったりします。彼ら地方でのエリートオタクは、生来の才能によるところも大きいでしょうが、日常生活おくる他は妄想くらいしかすること無いので、自然とオタクとしての素養が育まれたりします。
しかし、彼らの多くは、高校を卒業した段階ですぐさま東京に出て行ってしまう。基本的には進学や就職のためな人が多いのですが、やはり文化的な生活というものにあこがれて上京する人も多いようです。
こうして地方からどんどんと優秀な人材は流出していくのであります。そうしますと当然地方には人材的にあまり優秀で無い…というと何なのですが、ようするに積極性がいまひとつなオタクが残るわけです。
積極的というのは、自分でコスプレの衣装とか作ってそれを着て人に見せてみたり、とかそういうのはもちろん、消費に対し積極的かどうかという点も含みます。例えばDVDとか全巻ちゃんと揃えて買ったりするような人は、お金持ちかどうかというのを考えても、積極的なオタクだけなんですよ。特に金のない若いオタクは、よっぽど好きな作品でも「レンタルビデオでたまに借りれば良いか」くらいに考えてる人ばかりです。いいとこ「コピーするか」とか考える程度で。それすらも友達に頼む人間とかざらですよ。ちゃんとDVD買うような人は、勿論それなりの数は居ますが、大概は地方から出て行っちゃうんです。
消費においても、オタクの現場から遠いことで、地方にいるオタクは負けてしまうのです。
都会ではあまりレベルの高いオタクでなくとも、オタク同士のコミュニティやイベントがそこかしこにあるので、それに参加しているうちに自然と知識を得たり、自分の知らなかった作品に興味がわいて、ついうっかりDVDを買ってしまったりするのです。
いや、ちょくちょくアニメ会のイベントとか行ってて思うのですが、行くたびに新たな性癖が目覚めていく感じがしますよ。僕もねえ、そりゃあ大昔バーコードファイターとか読んでましたよ。でも女装ショタっ子とかに興味があるわけでは決してなかったですし、鹿島田しき先生のマンガを買ってわぁいとかしたりすることは無かったのですよ。BLというものの存在も知ってはいましたが、「おおきく振りかぶって」を読んで「阿部×三橋で田島×花井!これね!(`・ω・´)」とか思ったりするような思考回路は無かったんですよ。ちょっと前まで。にもかかわらず、アニメ会でやおいネタとか出て「おいおいサン×ゾロとかって、腐女子ネタかー、三平さんて面白いなあアハハ」と笑ってるうちに気がつくと「買うか、プリンセス・プリンセス(`・ω・´)」という風になってるわけです。これというのも僕がアニメ会のイベントに足を運んだ結果に他なりますまい。なんか物凄いオタクなってきているというよりかは、たまたま素質があったために物凄い変態になってきているだけのような気がしますが。
少々話がズレました。とにかく、それによって自分の世界が広がっていく可能性のある、様々な形の刺激が身近にあるということ。それが「オタクの現場」に近いということです。


翻って地方では、「オタクの現場」が存在しないのです。ですので、イベントも起こらないのです。企業はおろか同人誌を作る人も、そもそもオタクの集まるような場所も無い。多くの能動的なオタクは、オタクの現場を求め首都圏などに出て行き、ただ物を買うだけの消極的なオタクだけが残るのであります。
別に何かアクションを起こさないオタクが悪いオタクだとは思いません。別にどういう形のオタクだって、他人にとやかく言われる筋合いはないでしょう。
ただ問題は、そのままアクティブなオタクが流出していけば、そこで消極的であれオタクとして生きていくことがどんどん困難になっていくだろう、ということです。自分が好きなものを買ったりすることのできる店も無く、好きなことを理解してくれる人もできず、理解してもらう機会すらなく、テレビやネットの向こう側にしか自分が気安く接することの出来るものが無くなり、オタクとして生きていくことがどんどんしんどい環境になっていくのです。
これが別にオタクでなくなれば何も問題はないのですが、オタクがオタクをやめるのは、人間やめるとか日本人やめるとか童貞捨てるとかそういうレベルで不可能な話なので、生きている以上この「オタク不遇→オタク居なくなる→オタク不遇」という循環から抜け出せないのです。


とは言えど、けして能動的で能力のあるオタクが地方に全く居ないわけではないのです。それこそ、高校生くらいの若いオタクであるとか、職場とか家庭とかの事情で地方に居ざるを得ないオタクだとかで、アクティブでセンスのある人はいっぱい居たりするわけです。ブログとか見てても、地方在住で凄い面白いこと書いてるとか大勢いますよね。場所にもよりますが、そういった人たちもいないわけではないのです。
しかし、そうした人々が「じゃあちょっとなんかやってみようか」というアイディアを出したときに、それが実行可能なものであるかどうかは置いといて、「よし、やってみようか」とのってきてくれるような人があんまりいないんですよ。別にオタクに限った話でもなくて、地方はどういう場面でもそうなんですが。
それというのも、その人しか能動的な人がいないというだけじゃなく、モデルとなるものやノウハウが無い・少ないというのが大きいんですよ。イベント起こしたりだとか、何か作ったりするような、「オタクの現場」から遠いせいで、どうすればいいのかわからない、出来る気がしない。というか、自分達がそういうことをするというのが想像もつかない、むしろそんなことして良いのかという気にすらなっている。地方でイベントとかあっても、大概が企業やら官庁のおしきせのイベントで自発的なものがまず無いのはそのためです。
以前も申しましたとおり、地方のオタクでも東京の皆さんと同じようにアニメありゃ見てーと思ってますし、DVDでりゃ買いてーと思ってるんですよ。だから同じようにイベントありゃ行きてーと思いますし、やれるもんならやってみたいという衝動を、心のどっかにもってると思うんですね。ただ、それをどう表現すれば良いのかとか、果たしてやっちゃっていいものか、というところで気後れして、能動的な人がいても空回ってしまう。で、そういう状況に絶望して、またオタクが一人地方を去る、という状況があるんです。
でも多分そういう状況も、「オタクの現場」の経験を持つ人が何人か地方に現れて、一度成功すれば変わると思うのです。
こうすればこういう人たちがこれだけ集まってこういう反応が得られる、というのを理解できれば、多分地方でもオタクたちの活動が活発になるんじゃないかと思うのです。
…ということでですね、一番言いたいこととしては、「そこそこ名の売れた(地方出身の)オタクは地方に行って(帰って)みてはいかがか」ということなのですよ。そういう人たちが結局東京で「いやあ、うちの地元はソフマップもなければとらのあなも無い、オタクにとっては地獄でしたよハハハ」とか「いやあ、なんか地方で下流社会直撃の夢も希望も無いような生活してるオタクは2chで韓国人死ねとか言って何とか自己を保とうとしてんでしょ?大変だねえハハハ」とか言って他人事にしないで欲しいなあと思うのです。
その、理屈をこねたりしてくれるよりも、名の知れたオタクさまが地方の大学祭やら高校の祭りだとかのイベントで一席ぶって、そこで同人誌を販売してくれたりしたほうが、よっぽど地方で鬱屈してるオタクのためになるんですよ。
そこそこ名が売れた人が地方に来れば、隣県くらいまでなら物珍しさからぞろぞろオタクがやってくるもんですよ。
逆に若い人である程度秋葉原でのポジションが定まっちゃった人なんかは、東京に居続けるよりも、地方に進出して客を開拓したほうが今後は伸びるような…まあ違う話になるんでおいときます。
ということで、地方からオタクが出て行くのを食い止めて、地方のオタクを育むには、地方からでたオタクが帰ってくると良いのではないか、という話でした。




でもまあみんな…嫌なんだよね、地方とか('A`)