恋のドレスは開幕のベルを鳴らして:キモメン文学inコバルト文庫!

漸く読みましたよヴィクトリアン・ローズ・テーラーの第2巻。
いやあ、素晴らしい!素晴らしいキモメン文学でした!いやキモメン文学といって良いものかどうか悩ましいところではありますが、そうとしかいえませんな。

前回はインチキ理論全開の紹介文でしたので、今回はもうちょっと自重したいと思います…
あ、以下ネタバレ有りですんでご注意を。


さて、この本、前回もそうでしたが、恋愛小説ではあるけれど、根本的に喪小説です。本当にコバルトでこんなんやって良いのかというくらいの喪小説です。とはいえど「ファントム」に連載するにはソフトすぎますが。
まずは登場人物の紹介をしましょう。
ヒロインの仕立て屋『薔薇色』の店主クリスは、若くしてドレス作りが生きがいのオタク喪女。舞台を見たり綺麗な女性なんか見ても、基本的に意識がひたすらドレスのほうに注がれています。オタですね。男性はとても苦手です。喪ですね。相手役の貴族の息子のシャーロックは、「ガラスの仮面」の紫のバラの人みたいなイケメン喪男です。イケメンだけど喪なので上手いことクリスにアプローチできません。
それで今回は、クリスの幼馴染で『薔薇色』の看板娘・パメラが前回よりも活躍するのですが、このキャラはようするに「げんしけん」でいうところの春日部さん役ですわ。あと舌ったらずの幼女なんかも登場します。この辺がメインキャラクターですね。
で、今回ドレスを作る相手役なのですが、これがイケメンDQNにたぶらかされてるおなご達なわけですよ。
まず、依頼人が、貴族の令嬢ながら女優になるも、休養中で、今度の舞台に再起をかけるマーガレット。
そのパトロンで、劇作家のロバートという中年紳士。
その娘カリナは駆け出しの脚本家。今回マーガレットがクリスに頼んだのは、このカリナが脚本した舞台の衣装です。
そして、マーガレットの元恋人で現在カリナの恋人であるイケメン俳優のキース。
そして、主人公の敵役がアイリスという喪女。彼女は、着た人の心のなかのポジティブな部分を増幅させるようなドレスを作るクリスとは対照的に、着た人の心のネガティブな部分を増幅させる闇のドレスっちゅうのを作ってます。なんじゃそりゃという設定ではありますが、ようするに「萌えに走った主人公と、鬼畜道に落ちたライバル」という構図です。

で、これらのキャラたちが織り成すストーリーが、まさに電波男的文脈にぴったりとあてはまるようになってるわけですよ。
イケメンのキースという男はですね、イケメンでDQNなわけですわ。あっちこっちの女をとっかえひっかえしまくり、それも自分が舞台にでて俳優として成功するために利用してるに過ぎないわけです。歌舞伎町のホストがもっと酷くなった感じですよ。
それでもイケメンだから女は群がります。マーガレットは恋愛資本主義に毒された負け犬女で、「あああー、最近はもうお肌もカサカサして昔のように美人じゃないのよー。ニキータよんでコムスメに勝たなきゃ!どうなっちゃってんのよ、人生がんばってんだよ」と言ってます。というのも、彼女は女優として活躍してた頃にはイケメンのキースに蝶よ花よとされてました。まあ自分の野心のために利用されてたんですけどね。だが恋は恋、舞台は舞台と考えてキースを舞台の相手役に選ばなかったところ、キースに見限られてあらぬ噂を流されて、業界を干されてしまうのです。それからというもの、彼女はプライドだけは高いまま、自分に対する自信というものを喪失してしまいます。
このキースは別な女優と二股かけてたりしたので、そっちのほうが自分を主演に推薦してくれるかもしれんとか考えてたのですが、こっちもダメ。
で、次には脚本家の喪女カリナとくっつくという節操の無いことをします。このカリナがまた男性に免疫の無い喪女なので、「彼はステディだし、キースが浮気しまくるのを許さなきゃだわ」とか言ったりするんですよ。キースはキースで「そんなん口約束だから、マーガレットが売れっ子になってよりを戻そうとか言ってきたらそっちになびくぜ!」とか高言してるわけですよ。
それでも女二人は、そこまで酷い扱いを受けても、イケメンのキースに惚れ込んでしまって、負け犬と喪女でイケメンを取り合ってるわけです('A`)
そんなイケメンに耽溺するマーガレットを、喪男のロバートは影ながら見守って支えているわけです。勿論、報われずにあしらわれてばっかりです。
そこで、そんな恋愛地獄にとらわれた人々に対し「イケメンにとらわれてる恋愛資本主義の手先の愚か者どもめ、全員死ぬがいいわ!」と乱入してくる都井睦雄的存在なアイリス。
一方「イケメンにとらわれるな、オタクになれ!そっちは自分を愛してくれてる喪男の存在に気づけよ!」と諭すのがクリスです。これを論理的に示すのではなく、「ドレス」というモノで示すのがこの本の面白いところであります。
つまり、図にするとこんなかんじです。


ロバート(喪男)→マーガレット(負け犬)→キース(イケメンDQN)←カリナ(喪女)
↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑
クリス(電波女)vsアイリス(鬼畜女)


恋愛資本主義で地獄絵図を繰り広げる人々に対し、萌えを説くクリスと、カチコミをかけようとするアイリスという対比で、実に喪的な小説なんですね。勿論、最後は萌えが勝ちます。そこまで含めて実に電波男的な小説です。この作品の劇中劇なんかもそれを象徴しているような内容で、実に喪な感じです。


ホンマにこんな内容なんかいな?と思われるかも知れませんが、読めばわかります、読めば!なんか前回もこんなこと言ってたような気がしますが。
ということで、乙女から喪男の皆様まで幅広く薦められるコバルト文庫の中に生まれた喪小説の秀作、「ヴィクトリアン・ローズ・テーラー 恋のドレスは開幕のベルを鳴らして」でした。
絶対流行ると思うんだけどなあ…